COLLABORATION WITH CIVIL ENGINEERING FIELDS 土木工学

土木工学 -次世代インフラメンテナンスの実現に向けて,AI技術の実社会応用を推進-

高度経済成長期に建設された大量の社会インフラ設備の老朽化が進む我が国では,重大な事故の増加・維持修繕費の増大が懸念されています.このような背景から,社会インフラ設備の機能や健全性を確保し,事故や災害のリスクを低減するなど,国土強靭化に係る科学技術・イノベーションを活用した新たなインフラマネジメント技術の確立が急務となっています.そこで,メディアダイナミクス研究室では,次世代インフラメンテナンスの実現に向けて,最先端AI技術を応用し,維持管理業務の効率化と若手技術者への熟練技術の効果的な継承を目指した研究を推進しています.

AIによる高精度な変状分類

社会インフラ設備には,ひびわれ・腐食など多種多様な変状(下図)が発生しており,これらを正確に分類することが効率的な維持管理の支援に必要であるとされています.一般的な画像分類では,1クラス数千~数万の学習画像が必要ですが,実際の点検現場では,技術者が手動で画像を撮影するため,取得可能な画像枚数には限りがあります.メディアダイナミクス研究室では,少量の学習画像から高精度な変状分類を可能とするAIを構築しました.本研究では,Convolutional Sparse Codingを深層学習へ導入することで,少量の学習画像から多岐にわたる変状の特徴をAIが自ら学習します (下図).1クラス400枚の学習画像で92.5%の分類精度を達成しました (従来の深層学習の精度:78.8%).

本研究で構築したAIによるひび割れの特徴の学習過程

AIの判断根拠の可視化

社会インフラ設備には極めて高い安全性が要求されます.そのため,高精度な変状分類に加えて,分類結果を導いた理由を説明可能でなければ,AIを用いた効率的なインフラ維持管理は実現できません.メディアダイナミクス研究室では,高精度な変状分類に加えて,分類結果に対する説明性を向上させたAIに関する研究を進めています.具体的に,変状分類の際にAIが注目した領域を可視化することで,分類結果の判断根拠を説明可能なExplainable AI(XAI)を構築しました.XAIは現在のAI分野において注目を集めているトピックであり,これらを変状画像に応用した研究は世界でも類を見ない試みです.例として,下図右側の画像中の赤い領域で示されたAIの注目領域が,左側の画像中の実際に変状が写った領域と一致していることから,変状領域に注目した分類であることが確認可能です.このように,分類の判断根拠としてAIの注目領域を可視化することで,分類に対する信頼性の向上を実現しました.

熟練技術者の暗黙知継承

近年,インフラ維持管理を行う熟練技術者の離職と少子化による若手技術者の減少が懸念されており,熟練技術者のノウハウを効率的に継承可能とする技術の確立が急務となっています.メディアダイナミクス研究室では, 社会インフラ設備の点検中に視線センサ・モーションセンサ・バイタルセンサなど様々な生体センサを装着した熟練技術者から取得される生体信号と熟練技術者のノウハウとの関係性を解析する技術を構築しました.打音・目視点検時の熟練技術者特有の行動が「視線の動き」・「頭部・腕の動き」と高相関であることを明らかにしました.

世界最高峰の異分野融合研究を推進

社会実装へ向けた取組が『Microsoft Customer Stories』にて紹介 【リンク】

メディアダイナミクス研究室では,社会インフラデータを用いた最先端AI技術の理論構築だけでなく,構築したAIによる画像解析技術を利用し『変状評価支援システム(下図)』の開発と検証を進めています.東日本高速道路株式会社との共同研究による本成果は,日本マイクロソフト株式会社にも紹介されました.変状の種類や劣化の度合いを判定する際,対象画像を本システムに入力することで,過去の類似した画像とそれに対する判定結果が検索されます.これにより,効率的なインフラ維持管理が可能となります.

変状評価支援システムの例

『情報科学×土木工学』のトップジャーナルへの採択 【リンク】

最先端のマルチメディア技術を土木工学分野へ応用し,分野特有の問題を解決する新理論を構築することで,『情報科学×土木工学』のトップジャーナル Computer-Aided Civil and Infrastructure Engineering (CACAIE)(2020 IF=11.775)に採択されています.

現場と連携し,多種多様なデータを解析 【リンク】

画像・映像解析のみならず,点検中の技術者から得られる生体信号までを対象とした,インフラ維持管理に関する多種多様なデータの解析技術を構築しています.マルチメディア解析を専門とするメディアダイナミクス研究室ならではの取組として,世界に先駆けた研究を推進しています.

これまでの連携先機関

  • 東日本高速道路株式会社
  • 東京地下鉄株式会社
  • 株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング
  • 株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道
  • 東京電力ホールディングス株式会社
  • 株式会社安藤・間
  • 国土交通省北海道開発局札幌開発建設部札幌河川事務所

メディア掲載等

  • “北海道大学がデータビジネス拠点 副学長「世界に発信」,” 日本経済新聞. (2022/01/22) 【リンク】
  • 前田 圭介, “地下鉄トンネル維持管理への先端技術の導入(ドローン、BIシステム)-東京メトロの例- トンネル維持管理でのAIの活用,” 第7回鉄道技術展2021 Mass-Trans Innovation Japan 2021, (2021/11/24 千葉) 【リンク】.
  • “北海道大 情報科学研究院 AI活用でインフラ点検,” 日本経済新聞. (2021/06/16) 【リンク】
  • 長谷山美紀, “AI・IoT・ビッグデータ解析による次世代インフラ維持管理に向けた取り組み,” 第29回トンネル工学研究発表会 (2019/11/28)【リンク】
  • “AIって何だろう?vol.2」.” 道新プラス道新受験情報2020大学・短大特集 (2019/10/01)
  • MicrosoftCustomerStory-NEXCO東⽇本がスマートメンテナンスハイウェイで⽬指す、“発展し続けるインフラ情報基盤”とは, Microsoft (2019/09/13)【リンク】
  • “ビッグデータ解析による新しいインフラ維持管理ー画像解析による河川管理施設の点検効率化に関する研究-,” 開発こうほう, no.646, pp.36-39 (2017/04/25)【リンク】
  • “社会インフラの維持管理におけるビックデータ時代の到来,” 土研新技術ショーケース2016in札幌 (2016/12/15)【リンク】
  • “インフラ劣化判定支援,” 北海道建設新聞, pp.3 (2016/12/14)
  • “モデル事務所で導入,” 日刊建設工業新聞, pp.4 (2016/07/22)
  • “維持管理技術向上へ,” 北海道建設新聞, pp.3 (2016/04/13)
  • 長谷山美紀, “情報科学に基づいた社会インフラメンテナンス高度化の試み,” 第11回産学官CIMGISセミナー (2016/12/07)
  • 長谷山美紀, “情報技術による社会インフラ管理の高度化-ビッグデータ解析による構造物点検の高精度化の試み-, CReCシンポジウム (2016/04/11)
  • “異分野連携で大きな成果,” 北海道新聞日曜版, pp.2 (2015/12/13)
  • “先端科学研究者が解説,” 北海道新聞朝刊地方函館・渡島・桧山, pp.14 (2015/11/14)
  • “蓄積した画像データと照合「経験と勘」を再現,” 大分合同新聞夕刊, pp.9 (2015/01/26)
  • 長谷山美紀, “社会インフラ維持管理とビッグデータ解析, ” SCOPENET2014WINTER, no.71. (2014/12/26)【リンク】
  • “土木界もイノベーション,” 日経コンストラクション2014.8.25号, pp.54-55 (201408/25)
  • “TRONSHOW2014インフラのメンテナンスとビッグデータ-データから価値を生み出す-,” TRONWARE, vol.145, pp.56-57 (2014/02/20)
  • “橋の点検にスマホ活用過去写真と自動照合で損傷評価,”【Web】日経BPケンプラッツ (2014/01/20)
  • “ネクスコ東日本など、ICT使い橋梁点検-過去データで変状確認,”【Web】朝日新聞DEGITAL (2014/01/17)【リンク】
  • “高速橋の損傷を画像解析で判断,” 北海道新聞朝刊, vol.朝刊, pp.4 (2014/01/16)
  • “ICT活力推進会議が発足,” 北海道建設新聞 (2013/10/02)
  • “「ICTが解決する社会インフラの課題」ビッグデータ時代とデータ活用技術の最先端(2),”【Web】日経BPケンプラッツ (2012/09/27)【リンク】
  • “東日本高速を採択クラウド活用インフラ保守技術開発,” 建設通信 (2011/09/13)